3月4日

 朝、10時を過ぎた頃にベッドから出ると、Amazonで頼んでいたプロジェクターとFire TV Stickが届いていた。急にこれらを買ったのは、実家で知らぬ間に導入された4kテレビでいくつかアニメや映画を観て、スケールの重要性を痛感したから。経験の質がぜんぜん違って、やっぱりiPadで見ているようじゃダメなんだな、と思ったのだった。それで、届いてから、いろいろ試したけど、値段のわりには結構良いんじゃないか、という感じ。流石に家の4kテレビのようにはいかないけど。画面の大きさもそうだけれど、なによりも音に感動した。iPadでいつも使っている高めのヘッドホンをプロジェクターに接続して、YouTubeでいくつか音楽を聴いたのだけど、これがまた今までと聴いていたものがぜんぜん違くてビックリした。特にライブ。ギターの音が、弾かれた弦から直接聴こえてくるかのよう。オーディオ側だけじゃなくて、出力の側も大事ってことなのか。シネマ用ってことで豪華なのかな。そうやって、いろんな初体験を楽しんでいるうちに、バイトの時間になった。バイトには少し遅れた。

 電車の中で、『富士日記』(武田百合子)を読みはじめる。最近、日記の可能性をすごく感じていて、日記を読みたい時期なのと、娘の武田花の文章が良すぎて、母親の日記も買った。日記形式がもたらしてくれる、文の一つ一つの無機質で非人間的な感じが好きだ。小説にはやはりニンゲンニンゲンした文が多いのではないかと、疑ってしまう。日記で重要なのは書く人の広い意味での「人柄」なのだと思う。雑に言ってしまえば、おもしろくない人が書く日記はおもしろくない。

≪七月二十二日 快晴

 おにぎりを持って、三人とも精進湖と氷穴に行く。精進湖では対岸の熔岩めざして、女の人がたった一人クロールで泳いでいくのをみた。藻が多いらしく黒緑色の暗い湖だ。

 氷穴の中は零下三度で、氷屋で売っている三貫目位の氷柱のようなのがぎっしり並べて積んであって寒い。外ではみそおでんを売っていた。身延山帰りのじいさんばあさんが多い。あの氷穴の中の氷は、並べて積んだのではなくて、自然に凍ってできていたのかな。

 夕方、大輪の月見草を植える。≫(『富士日記』上、中公文庫)

 バイト帰りに、やたらと酔っ払っている女を見たり、電車を待っている男が「俺もエリカとやりたいわ」と電話越しに言ったりしていて、ひょっとして今日はそういう日なのかと思った。

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