2月17日

横田創『落としもの』に収録されている、「葬式」と「落としもの」を読んだ。最初に読んだ「葬式」はあまり面白いと思わなかったけど、表題作の「落としもの」は良かった。「葬式」には一応わたしとおかあさんとおばあちゃんとの物語があるのに対して、「落としもの」は物語もなければ構造もないのっぺりとした小説だった。電車に落ちているポケットティッシュを拾いたかったけど拾えなかったとか、フランス人に道を聞かれたかったけど聞かれなかったとか些細なエピソードや出来事が互いに意味づけを拒んだまま並置されている。一応、一段落目は「最初は踏切のあいだに落ちていたバッグだった。」とはじまり「けど、いまにして思えば、それが最初の出来事だった。」と終わるのだけど、小説を最後まで読んでも、その出来事が何の最初だったのかは分からず、構造を形成することはない。ただ複数の図がバラバラに並んでいるだけで、ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』とかに近い。あの作品がコーヒーとタバコが出てくるということだけで個々の場面を(ひとつの作品として)関連づけるのと同じように、「落としもの」の個々の場面を関連づけるのはわたしがそれを見たという事実だけ。こういう類の作品は自立した個々の場面の強度、それぞれがどれだけ魅力的か、あるいはその場を構成する「わたし」という装置がどれだけ面白いかにかかっていると思うけど、「落としもの」はちゃんと面白かった。特に最後の場面がすごい。

≪その水際に、薄曇りの空の下にあるとは思えないほど鋭く光るクリスタルの山を見つけた。スワロフスキーだったらすごいのにな、めっけものなのにな、と思いながら近づいたわたしが足をとめたのは、ぬかるみに足を取られたからではなくて、それが不法投棄された注射器の山であるのがわかったからでもなくて、その下から顎で引っ張り出した白いビニール袋の中のものをトコがあにあに食べていたからだ。

 わたしはトコは、ロイヤルカナンのキャットフードが好きなのだとばかり思っていた。けど、違った。こんな必死になにかを食べているトコをわたしははじめて見た。≫

星野源の新曲

星野源-創造(Official Video)

https://youtu.be/74FIsXlS0EQ

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